あの人が命を絶ってから、もう15年が経つ。
すばらしい人だった。
重い障害など気にもかけず、懸命に、生活を、趣味を、ひたむきな生き方を、世の中を良くしようと様々な活動を、おこなっていた。
あの人の姿を見て、障害を持つ多くの人が影響を受け、人生を肯定的な方向に向けたと聞いた。
初めて話した日、髪を立てた生意気盛りの高校生のオレを信用し、自分の財布を預けた。
月に1回は、遊びに行ってた。重い麻痺があるのに、 『仕事、疲れただろ。そこで寝てな。メシはオレが作るから』 って言って、作ってくれた。
オレが持って行った外国のビールを、 『旨い。旨い』 って言って、嬉しそうに飲んでた。
2人で飲みに行って、酔いつぶれたオレは、あの人の電動車椅子に掴まって、ふらふらになりながら千鳥足で街を歩いた。
いつもやさしく、強く、声を荒げることも無く、理路整然とゆっくり語る。
あの人の構音障害のために、オレが聞き取れずに (今思えば、オレの耳のせいもあるのだろうが、当時は自分の耳のことに気が付いていなかった) 、何度も聞き返しても、怒りもせずに言い直しをした。
あの人のミシンの縫い目は、綺麗な縫い目をしてた。何度も手を縫ってしまったが、上手くできるようになるまで諦めなかったらしい。
怖れも無く、 『バッテリーが切れたら、その時は誰か見つけりゃいいんだよ』 などと言って、実際にそれでなんとかなってた。
あの人たちの世代の障害者は、国が自ら福祉を放棄したことを隠すための “就学免除” と言う、それらしいお題目の下に、学業を受ける権利を奪われた。
だが、子どもの頃から、何千冊もの本を重い麻痺の手でめくり、読み続け、そこいらの生意気な国公立大卒のクソガキなんざ、比にならねえくらいの知識があった。
あの人が生きていたら、“障害者自立阻害法撤回”の公約を破り、阻害法と何にも変わらねえ名前すげ替えの法律を出す民主党を見て、 『ほら見ろ、言ったとおりだろ。あいつらも自民党も、元は同じ穴の狢だからな。』 って、言ってただろうな。
あの人が生きていたら、民間企業が儲けのために参入できるシステムにした今の福祉業界全体をどう見るだろう。
地域で一人ぼっちでいる人のために、コツコツと施設作りをすることや、そこに行く権利まで (貧乏人は) 奪われた今の福祉のシステムを、 『すばらしい制度に変わりました』 と褒め称えたオレの通っていたガッコのセンコーのことも、生きていたらオレは真っ先にあの人に言っただろうな。
『どこぞの政治家と一緒で、現場を見ていない、机上の空論なんだろうな。』 って、言ってくれただろうな。
ただ、あの人もある部分では空論だったんだ。“就学免除” と言う名の “教育の放棄” のおかげで、オレたちみたいに、ガッコで “性格のひん曲がった奴ら” や、 “そいつらのするサイテーのこと” を見てきたわけじゃない。
だから、あのチンピラのカス野郎につけ込まれたんだろう。あの野郎の危険性に気付けなかったのだろう。
オレは、もっとしつこく何度も止めるべきだった。
たった数時間、回数にして3回しか止めてない。
“重い障害もあるし、家も割れてるし、逃げようが無い” とは言え、オレがあのチンピラをしっかりと脅すとか、ナイフで刺すとかすればよかったんだ。
だから、あの人が死んだことを、オレのせいにして責め立てた奴らの気持ちもわかる気がする。
昔の武勇伝をいくら語っても、しょせん奴らは、 “昔” “集団で” “悪さ” をやってただけなんだろうからな (オレはその当時、1人で生意気にしてたからな。奴らと違って、 “悪さ” はしてねーけどな。) 。
だから、奴らがあの人の敵討ちとして 「あいつを殺す」 って息巻いていても、オレの所には一向に、 「あのチンピラが殺された」 って言う情報は入ってこないんだろう。
あのチンピラが生きてんのかどうかは知らねえし、オレは正直言って興味もない。まだ生きているとしても、どうせあいつは15年以内に病気で死ぬだろうからな。
それに、あのカスが死んでも、あの人は戻ってこないからな。
あんなスゲー人とは、もう二度と出会えないと思う。
毎年、この時期だけじゃない、忘れた事はない。
たくさん、たくさん、オレに優しくしてくれた。
あの人を思い出してビールを飲んだ。
何故だか今日に限って、寝付かない子どもを 「寝ないなら、付き合え」 と言って、膝に乗せて。
『お父さんは、君に、いつでも立場の弱い人の味方になる大人になって欲しいと思っている。』
『それを失敗しないためには、的確に状況判断をする能力が必要だ。』
『お父さんは、昔、失敗してしまってな。大事なすばらしい人を亡くしたんだ。』
『いつか、君が言葉がわかるようになったら、もう一度聞いてくれ。』
と言って。

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